人員計画と人件費予算をつなぐ——人事の「人数」と経理の「金額」を、ポジション単位の一つの台帳で揃える

Organization·組織・人事·約8分·全9ページ

エグゼクティブ・サマリー

  • 人員計画と人件費予算が合わない原因は、計算の精度ではなく「数える単位と時点」の違いにある。 人事は人を数え、経理は勘定科目で金額を積む。人事は期首の在籍者数で計画し、経理は月ごとの支払額で予算を組む。単位と時点が違えば、どちらも正しいまま食い違う。
  • 共通の単位は「人」ではなく「ポジション(席)」に置く。 人は入れ替わるが、席は計画の対象として残る。席ごとに組織・役割・等級・予算上の単価を持たせれば、人事の人数と経理の金額を同じ台帳の上で突き合わせられる。
  • 人件費の予算は「人数×単価」では作れない。「人数×単価×在籍月数」で作る。 4月入社と10月入社では年間の人件費が倍違う。採用の時期、退職と後任着任の間の空白、昇給・賞与の時期を月次で織り込まなければ、予算は期首の時点で既に外れている。
  • 欠員は「予算の余り」ではなく、計画どおりに事業が進んでいない兆候として扱う。 欠員による未消化を他の費用に流用し続けると、採用が追いついた時点で予算が足りなくなる。欠員の想定を予算に明示し、未消化分の扱いを先に決めておく。
  • 採用の承認は、席の番号と予算の番号を同じものにする。 「どの席を、いつから、いくらで埋めるのか」が承認時に特定されていれば、承認済みの採用と予算の対応が崩れない。席の番号のない採用依頼は、予算の外で人が増える入口になる。
  • AIは単価の推定や差異の説明文の下書き、異動・退職情報と台帳の照合に使う。 個人の給与は最も機密性の高い情報であり、AIが参照できる範囲は、本来その数字を見てよい人の権限と一致させる。

1. なぜ人数と金額が合わないのか

多くの企業で、期の途中に次のような会話が交わされる。人事は「計画どおり採用は進んでいる」と言い、経理は「人件費が予算を超えそうだ」と言う。あるいは逆に、人事は「採用が遅れて現場が回らない」と言い、経理は「人件費は予算内に収まっている」と言う。どちらも嘘はついていない。数えているものが違うのである。

食い違いを生む構造は、次の四つに整理できる。

食い違いの原因人事側で起きていること経理側で起きていること
単位の違い人数(在籍者・採用数)で計画する勘定科目別の金額(給与・賞与・会社負担の社会保険料等・手当)で予算を組む
時点の違い期首と期末の在籍者数で語る月ごとの支払・計上額で語る
範囲の違い正社員の人数を中心に見る契約社員・派遣・業務委託の費用が別の科目に散る
更新の違い採用・退職・異動を随時反映する予算は期首に固定され、実績との差は月次で事後に見る

この四つのうち、どれか一つが揃っていないだけで、人事の数字と経理の数字は突き合わなくなる。突き合わない状態が続くと、人件費の議論は「どちらの数字が正しいか」の確認作業に時間を取られ、本来の論点——この人件費で、計画した事業を実行できる体制になっているか——に届かない。

人件費は、多くの企業で売上原価と販管費を通じて最大級の費用項目の一つである。それにもかかわらず、その計画が人事と経理の二つの台帳に分かれ、期中に一度も同じ表の上に並ばないまま期末を迎えることは珍しくない。

本ホワイトペーパーでは、①ポジションを共通の単位にする、②人件費を月次の在籍で積む、③欠員と未消化の扱いを決める、④採用承認と予算を同じ番号で結ぶ、⑤期中の差異を打ち手につなぐ、⑥AIの役割を定める、⑦段階的に実装する、の順に、人員計画と人件費予算を一本につなぐ設計を実務の粒度で示す。

なお、どの能力がいつ足りなくなるかという要員の需給分析そのものは別稿「ピープルアナリティクス」で扱っている。本稿は、その需給の結論を人数と金額の両方で、月次の計画と実績に落とす仕組みに焦点を当てる。

— 続きはこの先。全文を無料でお読みいただけます —