ROIC経営の実装——資本コストを現場の言葉に翻訳する

Finance·会計・ファイナンス·約8分·全7ページ

エグゼクティブ・サマリー

  • ROIC(投下資本利益率)を中期経営計画に掲げる企業は増えたが、現場の行動が変わった企業は多くない。理由は明確で、ROICは全社・事業部の「結果指標」であり、そのままでは営業担当も工場長も、明日何をすればよいかを読み取れないためである。
  • ROIC経営の実装とは、率の高低を議論することではなく、「利益を増やす」と「投下資本を減らす」という二つの経路を、現場が制御できる変数まで分解することである。分解された先にあるのは、売掛金の回収サイト、在庫の滞留日数、設備の稼働率、値引き率といった、すでに現場が日々触れている数字である。
  • 実装の最初の壁は会計ではなくデータにある。投下資本は貸借対照表の科目であり、多くの企業では全社または法人単位でしか把握されていない。事業別・製品別のROICを出すには、運転資本と固定資産を事業に紐づけるルールと、それを毎月回すデータ構造が要る。
  • ROICは、事業ポートフォリオの判断にも使われる。ただし「ROICが資本コストを下回る事業は撤退」という単純な運用は、成長投資期の事業を早期に潰す危険がある。事業のライフステージごとに評価軸を変える設計が必要になる。
  • 本稿では、ROICが現場で機能しない構造的な理由、ROICツリーによる現場KPIへの翻訳、投下資本を事業に割り当てる実務、必要なデータ構造、ポートフォリオ判断への接続、そして陥りやすい失敗までを示す。Orchestrixは4職種のアーキテクトを一気通貫で供給し、指標の定義から現場で使われる仕組みの定着までを支援する。

背景——「ROIC○%」が掲げられた後に起きること

中期経営計画の説明資料にROIC目標が記載される。全社方針として各事業部に展開される。四半期ごとに実績が集計され、経営会議で報告される。ここまでは滞りなく進む。

問題はその次に起きる。事業部長が自部門のROICを見て、「では何をすれば上がるのか」と問うたとき、返ってくる答えが「利益を増やし、資産を減らしてください」という同義反復に近いものになる。指標は示されたが、打ち手が示されていない。結果として、現場の行動は従来どおり売上と営業利益の追求に戻り、ROICは報告資料の上でだけ存在する数字になる。

もうひとつよく起きるのが、分母の操作である。ROICを上げる最も手早い方法は、投下資本を減らすことだ。設備投資を先送りし、在庫を絞り、人材採用を止めれば、短期的に率は改善する。しかしそれは将来の稼ぐ力を削っているだけかもしれない。率だけを見て評価する運用は、この副作用を検知できない。

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