ユニットエコノミクス——LTV/CACで事業を診る

Finance·会計・ファイナンス·約14分·全8ページ

エグゼクティブ・サマリー

  • 「売上は伸びているのに現金が減っていく」という経営者の違和感の正体は、多くの場合ユニットエコノミクス(顧客一人あたりの採算)の崩壊である。PL上の成長とキャッシュの健全性は別物であり、後者を測る唯一の共通言語がLTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)である。
  • LTVとCACはどちらも「定義次第でいくらでも良く見せられる」指標である。粗利ベースか売上ベースか、獲得コストに何を含めるか——この定義の曖昧さこそが、経営会議で数字が信用されない最大の原因になっている。
  • 目安として語られる「LTV/CAC比は3倍以上」「CAC回収期間は12〜18か月以内」という基準は、業種・商材・資金調達環境によって大きく変動する(本稿の数値はすべて目安であり、実数は自社のコホートデータで検証する必要がある)。
  • ユニットエコノミクスは一度計算して終わりの指標ではなく、コホート(獲得時期別の顧客集団)ごとに継続的に追跡し、営業・マーケティング・カスタマーサクセスの意思決定に組み込んで初めて価値を持つ経営OSである。
  • 本稿では計算式の分解から、コホート分析の実務、成熟度モデル、90日実装ロードマップまでを具体的に示す。Orchestrixは4職種のアーキテクト(ビジネス・ソリューション・テクニカル・AI)を一気通貫で供給し、経営指標としてのユニットエコノミクス構築から可視化基盤の実装までを支援する。

背景・問題提起:なぜ「感覚」から「単位経済性」への転換が必要か

成長期の企業でしばしば起きる現象がある。売上高は前年比で二桁成長を続けているのに、資金繰りは年々苦しくなり、次の資金調達のたびに条件が悪化していく。原因を分解すると、たいてい「顧客を一人獲得するためにかけているコスト」が「その顧客が生涯にわたってもたらす利益」を上回っている、あるいは上回りかけていることが判明する。これがユニットエコノミクスの崩壊である。

問題は、この崩壊がPL(損益計算書)の月次・四半期の数字だけを見ていては発見しにくいという点にある。全社の売上は営業チームの新規獲得によって右肩上がりに見える一方で、個々の顧客単位で見ると採算が取れていない、あるいは獲得コストの回収に何年もかかるという状態が隠れてしまう。特にサブスクリプション型・継続課金型のビジネスモデルでは、初期の獲得コストを将来の継続収益で回収する設計になっているため、単月のPLだけでは健全性を判断できない。

さらに厄介なのは、LTVとCACという二つの指標が、社内のどの部署が計算するかによって定義が変わってしまうことである。マーケティング部門は広告費だけをCACに含め、営業部門の人件費を除外したがる。逆に経営企画は全部門の関連コストを配賦したフルコストで見たいと考える。LTVについても、粗利ベースで見るか売上ベースで見るか、解約率の前提をどう置くかで数字は数倍変わる。この定義の不一致が「うちのLTV/CACは5倍です」という報告と、実態としての資金繰り悪化との間にギャップを生む最大の要因である。

本稿の狙いは、LTVとCACを「経営会議で全員が同じ意味で使える共通言語」として再定義し、コホート単位で継続的に検証できる仕組みへと落とし込むことにある。

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